強く儚い者 10


10 敗因


「ねぇ、キュウゾウ。もしかして…怒ってる、よね……?」

もしかして、なんてものではなく。
明らかに…。キュウゾウは怒っていた。
瞳を覗きこまなくとも。 表情が、声が、漂う気が、それを示している。
そして……。怒りの他にも、もっと別の感情が、見えた。


アカツキの言葉に、キュウゾウは、何も返してこない。
多分、きっと…。 自分でも解っていないのだろう。
一体、何に。どう、感じているのか。はっきりとはー。



「 …… 何故、何も言わなかった 」

また、同じ問い掛けをされた。
今度は、さっきのような答えでは済まされない。
此処には、ヒョーゴは、…いない。
自分で、ちゃんと。 伝えなければ…。


「あのコの…。彼の言う通りだったから」






少年の言った事は間違いでは無かった。
彼の完敗だった。
決勝でのアカツキの動きは、普段、学舎で見せるものではなかった。

その所作で。 常に帯刀する、その刀で。
人を、斬る。 人の赤い血を、浴びる。

容易くというのなら。
その瞬間のアカツキには、迷いなど、無い。
だから、きっと。 そうなのだろう。

無心かどうかはー。
言葉を以て言えば、これも間違いではない。
だが。少年の思うところとは、別の相違があるかもしれない。

少年の意味する『無心』と。
斬る者が抱える『無心』と。
アカツキの持つ『無心』とー。
其処には、大きな差異が、存在する。


命を奪う事。
それは……。




そんなアカツキを、少年が目撃したというのも、本当だろう。
未だ人を斬った事の無い彼にとっては、奇異なものとして、眼に映ったに違いない。
同年代の、自分よりも身体の小さい少女であるアカツキが。
人の肉を斬り、骨を断つ。 そんな、おぞましい感触を、既に知っている…。
そんなものを見て、脳裏に焼き付いて。
一度は忘れようとしたとしても、無かった事として誰にも言わずにいたとしても。
いざ対峙すれば、……嫌でも浮かんで来る。

 真剣を振るう、アカツキ。
 その動き、その色。
 表情の無い、表情。

恐怖を通り越した、得体の知れない感情。
自分の身に懸かる、期待。 胸に在る、意気。
じわじわと競り起こる、心の葛藤。

そんな彼を飛び越すように、アカツキは奔った。
そして、少年は敗れる。






   それは、何の所為?  誰の、所為?


   強く在る事は、いけない事?
   強さを求める事は……。


   何かにとって。 誰かにとって。  ……… 悪い事にもなるの?




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