強く儚い者 12


12 潜る


「 何が、解らない? 」

アカツキの問い掛けに。

「 すべて 」

キュウゾウが応える。

短い、けれども意思の籠った、静かな低い声。
言葉でしか伝わらないものを、待つ紅の双瞳。


緊迫するような状況の筈なのに、何故か落ち着いた気分になっているのを、
アカツキは感じた。
不安の中に、期待が。 恐さの先に、出口が。 …そんなものが、あるかのような…。

キュウゾウが、言葉を待ってくれている。
小さな自分が、何処かから見つめている。






「 何から…話せば良いのかな… 」

首を傾げて、そっとアカツキは笑みを見せた。
ゆっくりと目蓋を閉じる静かな瞬きと共に。


「 あのコの…。彼の言った事、あまり気にしないで。私は大丈夫だからー 」

いちばん最初に、伝えられた言葉。


あのような者の事など、意としていない。
お前の事を、案じてなどいない。
お前は、そんな事に動じる奴ではない。
そんな弱い人間では、ない。

そう思っていたキュウゾウが、アカツキの声と表情に、思い弛む己を知る。
自分は、気にしていたのかと。
いちど気付いてしまうと、刹那の安堵感など、即座に消える。


そのまま柔らかな色を見せ、アカツキの言葉は続く。

「 彼の気持ちは、なんとなくだけど…。解るような気がする。
  そうさせてしまったのは、私の所為でもあったんだと思う 」

「 漫ろ言だ 」

空かさず、キュウゾウは言い放った。

「 ……うん。そうだね。でも、それは、私だって彼だって解ってる。
  解っていても、言わずにはいられなかったんだよ。
  私が…、そう、思うように… 」


あの沈黙は。あの鎮まりは。 拒絶や無関心などではなかったと…。
キュウゾウの中で蠢く違和感。


「 ねぇ。キュウゾウは、子供の頃のこと、覚えてる? 」

何を突然、と微かに頭を揺らせた。
首を傾げながら悪戯っぽく見上げてくる黒の瞳を、キュウゾウは伏せた眼で見つめる。

「 負けて口惜しかったことって、ある? 」

「 否 」

考えるまでもない、即答。

そんな覚えなど有りはしない。
刀を持ち始めた幼少ならいざ知らず、物心付いてからは、敗北など知らぬ。
全ては只の壁。それすらも揚々と軽く飛び越えて来た。
敵わぬ相手など、そう思わせる者など、自分には居ない。
… 少なくとも、剣に関しては …。

それが、どうだと言うのだ。
アカツキの言葉の真意を、キュウゾウは探る。




「 弱い者の気持ちなんて、解らない 」

ぽつりと。
零れたようなアカツキの呟き。
その声が、沈む。

「 だって。キュウゾウは、最初から強かったでしょう? 」

キュウゾウのなかに。自身のこころに。  アカツキが、潜る。




  強者は、弱者の視点には立てない。
  強き者は、弱き者の心理は解らない。


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