強く儚い者 14


14 無心


キュウゾウの脳裏に、幼いアカツキが居た。
出逢ってすぐの夜に見せた、心の闇と虚無。
それを感じたのは、あの頃だけだった。
あれから…表面に表れる事はなかった。

… 未だ、抱えていたのか。 ずっと…。


空を、月を見上げる仕草にも表情にも、今でも変わらぬ愁いは在ったが。
傍に居る者に、穏やかさも見せていた。
見守る者に対する、心を寄せる感情を。

ヒョーゴと。キュウゾウに。


それ以外の者には、柔らかな人当たりの良い外観を見せながらも、
やはり、隔たりが在った。
優しいと、和やかだと、そう称される者の中には。
甘さと、綺麗事。 恐さと、逃避。
そんなものが在るのだと。 アカツキは云う。






聴覚のみで識る、上辺だけの沈黙が破られる。

「 彼の言った『無心』って。…どういうことだったんだろう。
  キュウゾウの『無心』って、どんなもの? 」

不意に。 少年の残した言葉をなぞって、アカツキは問うてきた。
自分を誹った言葉よりも、ソレに。
アカツキは拘り(こだわり)があるようだ。


下らぬ者の、見え透いた自己弁護と茶番。
その中に紛れていた、飾りのような単語。

『無心で人を殺める事が出来る』

発した者が、其処に何を含んでいようとも。
言葉としては、然る可き事だ。

それに、アカツキは、……何と応えていた……?


 『 ……そうかも、…しれない…… 』


瞬時にして、混迷の氣が溢れ出た切っ掛けの言。
何故ー。  あの、ひとことを聴いた瞬間…。




理解不能な感情の、出口を求めて。
それを問う者に。

「 無心でなくては、人は斬れぬ。
  心に荷が在らば、それを守らんが為に気を配らせていては、斬る事など出来ぬ。
  無心でなく人を斬る。それは、生死に懸かる剣を持たぬ者の思考 」

抑揚のない、静かな声で。 キュウゾウは唱える。


その言葉が、アカツキの耳に低く届く。 身体のなかに、こころに、入ってきた。
大きな黒の眼を、更に零れそうな程に見開いて。
じっと、聴き入っていた。


「 …… アカツキ 」

意識を手放したように、惚けた表情で見返してくるままのアカツキを訝って、
キュウゾウは名を呼んだ。

「 …… あ、うん。…やっぱり、キュウゾウは…サムライ、なんだね 」

夢から覚めたような瞬きを繰り返し、嬉しそうに、哀しそうに、アカツキはー。


「 私の無心はね。そんなハッキリとしたものじゃないみたい。
  本当に。何も考えていないの。何も、無いの。
  そのことに、ずっと…。目を背けていたんだと思う。斬る相手を見ることにも。
  彼の言葉を聞いた時、痛いところを指摘されたような、見透かされたような、
  そんな後ろめたさがあった。傷つくとかじゃなくって…。恐く…なったのかな。
  だから…、それから逃げた。あんなふうにしか、答えられなかった。
  あそこで答える必要なんて、無かったのに… 」

キュウゾウを、見上げ直す。

「 私の、あの言葉に。キュウゾウは怒ったんだよね。
  ううん、怒ったっていうのは、ちょっと違う、かな…。
  キュウゾウを、傷つけて、哀しませた、のかな… 」

火の紅の瞳を、アカツキは見つめる。 追って。迎えてー。


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