Q夢想
侍7の9main
強く儚い者 18
18 不言実行
頭に置かれていた手が、スッとアカツキの背へと降り、キュウゾウが身を屈める。
金の髪を間近にし、無意識に、誘われるように、アカツキがそれに触れようとした時。
軽い浮遊感。
「 キュウゾウッ。私、自分で降りられるよ。上ってこられたんだから 」
キュウゾウの左の腕に抱えられ、アカツキが慌てたような声を出す。
「 このほうが速い 」
眼下の道に面する空間に背を向け、キュウゾウは、隣接する建物の方向へと進む。
どうやら、地上には降りずに、このまま屋根を伝って行くつもりらしい。
そのまま大人しく運ばれていたアカツキだったが、不意に。
思い出したように、キュウゾウを窺った。
「 ねぇ。重くない? 」
初めてキュウゾウに、こうして抱き抱えられたのは、幼いコドモの頃。
あの時は、もっとずっと、自分は小さかった。軽かった。
今は。先日のコンビナートタワーの時は。 あの頃とは違う。
当たり前の事だけれど。
今の自分は、成長した分だけ、……重いはず…。
なんだか、やけに。 それが気になった。 照れくさいような、恥ずかしいような。
問われたキュウゾウは、アカツキに近い目線で、瞬きを見せる。
金の毛先が、揺れる。
意味が、解らなかった。 アカツキの言葉のー。
何が、重いのか。
自身に関わるものの中で、重いものなど、あっただろうか。
不可解な問い掛けに、キュウゾウがアカツキを見返した時、気付く。
いま腕にあるものの事を言っているのだと。
無論、重くなどなかった。
この程度の加重、跳躍に何の支障も無い。
斬り合えと言われれば、両の腕が使えぬ故、戦闘力は落ちるだろう。
だが、アカツキを守る事に、懸念は無い。 不安にさせるような事など、無い。
短い時間の中で、キュウゾウなりの回答を導き出した時。 新たに気付いた。
いま、腕にある存在の事をー。
そう言えば…。
あの、実在しているのに、その実感が無いという頼りなさが。
信じられない程の、軽さが。
今は、無い。 無かった。 未だ記憶に新しい、先のタワーでの時もー。
問われるまで、気付かなかった。
今は…手にしたものの重さが、感じられる…。
「 …重く…感じる… 」
思ったままの事を、キュウゾウは声にした。
「 ひどいっ! そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃないっ 」
直ぐさま返された、アカツキの不服の言。
訊いてきたのは、お前だろう…。
些かの異議と疑問を感じはしたものの、腕に在る者の表情と声に、
そのコドモっぽい仕草に、キュウゾウは微笑する。
「 人はね、キュウゾウ 」
スゥッと。 そこに在る色が変わった。
落ち着いた、穏やかに通る声音。
「 変わるんだよ 」
どこか懐かしさを覚える、大人びた微笑み。
やがてそれも姿を隠し、アカツキは首を傾げて紅の眼を覗き込む。
そこから何かを読み取ったのか…。
「 私だって、いつまでもコドモのままじゃないんだからっ 」
キュウゾウに、無邪気な笑みを見せた。
変わる、かー。
確かに違った。
あんなお前も居たんだな。
気付かぬ俺も、未だ甘いという事か。
なら、…ヒョーゴにも……。
いや。 あいつは、いつだって…。
「 ……掴まっていろ 」
そのままキュウゾウは、地面を蹴り、宙を跳ぶ。
アカツキを片方の腕で抱き抱えたまま。
跳躍の力と速さの加減をせず。
アカツキの、小さく大きな訴えに。
寡黙な男の行動が、応えを表していた。
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