Q夢想
侍7の9main
強く儚い者 20
20 再認
上昇の振動を受けながら、もうすぐ現れる見慣れた景色をアカツキは浮かべた。
昇降機の速度に緩まりを感じた時。
「 キュウゾウ 」
大振りの鞘越しに、名を呼んだ。
キュウゾウは、振り向く事なく僅かに回頭し、続く言葉を待つ気配を見せた。
「 まだ、…私は、キュウゾウの『好き』の中に、…入っている? 」
訊かずにはいられなかった、臆病な自分の縋り声。
少年のように、我を忘れる程の自身を見せはしなくとも。
やはり、持つ想いは同じだった。
自分の中に生まれた不安を、埋めたままにしておけない。
人に、相手に、打つけてしまいたくなる。
想いの種は違っても、…同じだ。
ガーガコンッ
昇降機の停止を合図に、アカツキはキュウゾウの隣に並んだ。
紅の衣に、手を掛け、掴む。
そぉっと、見上げる。
寡黙な男の火の紅の瞳が、優しい肯定を表していた。
縋っていたキュウゾウの腕を滑るように降りてゆき、
アカツキの小さな手は、白い手を握って止まった。
与えられた安堵の気持ちを、冷たい手に伝える。
よく知るキュウゾウの手は、なんだかいつもよりも、大きく温かく感じられた。
正門から延びた橋を渡り切る前に、屋敷の騒がしさに気付いた。
多くの者が行き交いする様子が窺える。
先陣の隊が着いたのだろうか。
正門を潜ったところでカムロから受けた、思いのほか早いアヤマロ帰参の報告。
本殿前の広場では、御用車から大量の荷下ろしがされていた。
擦れ違う者達と、アカツキは無事の帰還を喜ぶ挨拶を交わす。
そして…。 人集りの向こうに見えた、簪を差した長い黒の髪ー。
久し振りのヒョーゴだ。
帰り着いても、まだまだ忙しそうに、みなに指示を下す声。
いつもの、声だ。 元気そうだ。
ううん。 疲れていても、そんなところを下の者には見せない。
いつもの、真面目なヒョーゴだ。
ついさっきの憂い事など忘れてしまったかのように、アカツキは、まだ遠くに見える
忙しなく向きを変える黒の頭の動きを追っていた。
振り向いてくれる時を待ち遠しく感じながら。
けれど、その淡い期待は、長くは続かない。
待つ暇もなく、すぐにヒョーゴは振り返った。
その刹那。
アカツキに湧き起こった高揚と。 繋いだ手に籠められた、縋る、力。
ゆっくりと、歩んで来る。
途中、周りの者から何度か声を掛けられ、その都度、短く応対し。
ヒョーゴが、近付いて来る…。
ギュッと。 キュウゾウの手を、アカツキは無意識に握り込んだ。
繋ぐ手と、映す眼。
そこに向かって流れた意識が。 慣れ親しんだ場所での情動が。
アカツキの心を無防備にする。
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