気づいた言葉 4




「……アイツも、話せたんだな……」

食後のコーヒーとカンベエを前にして、視線はカウンターに向けたまま、
呟くようにヒョーゴは言う。

「ん? ああ、シチはワシの有能な通訳だ。
 場所や人種が変わって面倒な時には、イイ働きをしてくれていたぞ」

2人と知りあってからこれまで、共に異国へ出掛けていくところなど、
見たことも聞いたこともない。 昔の話なのだろう。
カンベエも、そこそこ話せたハズだ。自分と似たようなレベルで。
仕事部屋に掛かってきた国際電話に、焦ることもなく応対していた。
けれどすぐに、子機をヒョーゴに押しつけてくる。面倒くさそうに。
…… コッチだって面倒だっ。

シチロージが居れば、異国だろうとドコだろうと、困ることもないだろう。
さぞかし甲斐甲斐しく世話を焼いてやったに違いない。
言葉以外でも、あの。醸し出すような柔らかさでヒトを惹く微笑。
アレさえあれば、どんな地でも人間でも、たやすく懐柔できそうだ。

…… いや、アイツだって…。
その気にさえなれば、なんでもアリだ。
言葉以外でも、あの。突き刺すようなチカラのある視線。
もっと言えば、あの。場を無視したようなマイペースさ。
アレさえあれば、どんな空間でも種族でも、たとえ外宇宙生命体の前であろうとも。
難なく自分を貫いて生きていけそうだ。
…… まぁ、そんな必要もないがな。 オレが居ればー。


ついつい、愛しさに紛れて、思考が脱線してしまった。
ヒョーゴは意識を現実へと戻し、気に掛かっているコトを吐き出すように、
カンベエに向かいあい、問うた。

「アイツは、お前にアノ言葉で話すことはあるのか?」

なんだか自分の弱みを晒してしまうようでイヤだったが、他に適任者はいない。
…… しかたない。

「いや、…ないな。シチはな、奥ゆかしいヤツなのだ。
 これみよがしに己の才を示すようなことはせぬ」

なんだか見当違いな返答をされた気がしないでもない。
…… ソレは惚気か…?

「ワシが頼むと聴かせてはくれるがな。あの何とも言えぬ声で」

…… やはり惚気だ…。
馬鹿馬鹿しいと思いながらも、ヒョーゴは再度たずねる。

「それは…お前がアイツに通訳を頼んだときはってコトか?」
「ソレ以外にナニがある。
 あのようなシチも好いが、やはりいつものアヤツが一番だからな」

…… どこまでも惚気だ…。
適任者はコイツではなかったようだ。
もうこの話は終いだと、自身の求める光景を、ヒョーゴが再び追ったとき。


「ヒョーゴ、ここはワシらの国だぞ。ワシとシチが出逢い、共に在る地だ」


不意にー。
振り向くと、ヤニさがりの惚気オトコが真面目な顔を見せていた。
やはり、ヒョーゴにとっての適任者であったのかもしれない。

カンベエの言葉は、あたりまえの。ごく普通の。なんでもない台詞だった。
少々の不遜も感じはしたがー。  けれど。


なんだか…。 なぜか………。






  いままで気づかなかった言葉は、キュウゾウのモノだった。
  いまとなっての気づいた言葉は、キュウゾウと。 そしてヒョーゴの…。


  フタリのコトバでもあった。


(完)
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