知らない言葉 8




「 ……ヒョーゴは、…………。 ヒョーゴが、…知らない 」


つたない声が、なにを言わんとしているのか、ヒョーゴには解った。
自分も、コドモだった。
キュウゾウの、慣れない言語は聴こえても。
キュウゾウの。キュウゾウだけが知っていた言葉は、聴こえなかっただろう。
カタチのあるものとしてはー。


 だが、いまは違う。 コドモを脱した時だって。
 いや…。
 出逢った時だって。
 キュウゾウの。コイツのものなら…。
 オレには解るハズだ。 聴こえた、はずだ…。


声は、続いた。


「 ……ヒョーゴの、知らない言葉を……話したくは、なかった 」
「 いまのオレは、どうなんだ? 」

…… コレは、問いつめているコトになるのだろうか。
少し、罪悪感にも似たキモチを、ヒョーゴは感じたが、
まだ、キュウゾウは、伝えようとする様を見せてくれている。


 気づいても。 聴きたい、知りたい、そう願うモノもある。


夜の冷え冴えた空気が鼓膜を響かせる。
カラダからの音響さえもが邪魔モノだ。
澄ませて。透いて…。




フッと、赤褐色が閉ざされ、ユラリと。金色が揺れた。
立ち止まっていた脚が、動きはじめる。
スッと流れた硬い横顔。……キレイだと思った。見蕩れた。


「 ヒョーゴの知らないオレは、……ちがう 」


夜気に紛れるようにー。

云って。ヒョーゴを置いて、歩きだした。
キュウゾウとの間にできた、数歩の距離。


「 …… おいっ、キュウゾウッ 」

カラダもキモチも取り残されてしまったように、ヒョーゴは追った。

「 違うって、お前。いったい何がー 」


細い背が、カタチを変える。


「 おなじでイイ。……それだけだっ 」

振り向くこともなく。 キュウゾウは、投げ言った。




望んだ言葉が、なんだったのか。
願った言葉は、どうだったのか。
ヒョーゴ自身、ハッキリとは解っていない。
それでもキュウゾウの声が。ソレの奏でるモノは。
ひどく満足感をもたらせる。さらに期待をさせる。


 …… オレは、欲張りなのか ……?




慣れた道のりを、今夜は2人で並んで歩く。
誰とも何とも擦れ違うこともない。静かだ。
追い抜く風景も、肌で感じる流風も、バイクやクルマでは味わえないものだった。
おそい、速度。 ゆっくり経過する、時間。 
住処に辿り着くまで、まだまだ掛かりそうだが。 こういうのも、… なかなかイイ。
こんな静かな夜には。フタリで居られるのなら。 …… ヒトリでは、ないのならー。


いま、傍に在るコト。
その、確かな時間が、ただー。 ヒョーゴは愛おしかった。


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