知らない言葉 9




トロいほどの平和な時間も、そう長くは続かない。


「 ヒョーゴはズルい 」

唐突に。
拗ねたように、怒ったように。 キュウゾウが、上目遣いで零してきた。

「…………なにが」

言葉少なく受け答えをするヒョーゴに、やや焦りの色。
…… 問いつめ過ぎたか。やり過ぎたかー。


「 ヒョーゴも、言わない。……オレに 」

「 …………ッ 」




イタイところを突かれた。 ……… キュウゾウにしては鋭い切り返しだ。
ココロの起動を促された。 ……… キュウゾウにも在るのだと。おなじようにー。


 たしかにオレは、ズルいオトコだな。
 しかたないだろうっ。惚れた弱みだ。
 どうしたって、オレのほうがお前を……。


上着ポケットの中で、ヒョーゴは拳を固く握りこんだ。

自分の知らない言葉があるように、キュウゾウの知らない言葉を、自分は持っている。
まだ、云えないでいる。聴かせられないで、いる。
いまは、まだ…。




なにも返せずに立ち止まってしまったヒョーゴを、キュウゾウが振りかえる。
もと来た道を、戻ってくる。 ヒョーゴに近づいてくる。

クッと。ちいさく喉を鳴らした。


「 そんな顔をするな 」

そう云って。おさなく微笑った口許が。
「しょうがないな」 そう言っているようで ー。


やわらかく届いた赤褐色が、ヒョーゴのココロを触れる。
キレイだと想った。とても。 ……… 切ないほどに ー。


 ああ、やっぱりオレは……。
 言葉なんかじゃあ、伝えきれない。
 言葉なんかで、繋ぎとめられない。
 いまのオレは。そんな、お前だから………。




肩に掛かる手。
キュウゾウが、黒の髪に触れてくる。
寄り添う赤色。
深い瞳と艶の唇が。誘い、強請ってくる。
ヒョーゴの熱りを。甘さを。
くちづけを………。



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