強く儚い者 22


22 化物


「ウキョウ、小父さまは? 先にご挨拶をしないと…」
「えーっ。イイじゃん。そんなの後で」
「ダメ!」

ウキョウの手を、アカツキは振り解く。

「しょうがないなー。すぐに終わらせてよー」

引き寄せていたものから離された手を、ウキョウは頭の後ろで組み、億劫そうに、
回廊を進む足の向きを変えた。


「そうそう。今日は大会があったんでしょう? どうだった?」

今日の結果を尋ねる、今日最初の問い。 思い掛けない者からの、屈託のないー。

「 ………うん。優勝したよ 」

意外と、すんなり、答える事が出来た。
その事に、自分でも微かな驚きを、アカツキは感じた。

「ふ〜ん。おめでと。ヨカッタね。
 でもさぁ。あんなバケモノたちと一緒にいるんだもん。当然の結果だよねー」

ウキョウの揶揄する者達が、反射的にアカツキの脳裏に浮ぶ。

「暁(あかつき)もさぁ。そんなコトにガンバってないで、危ない事はバケモノたちに
 任せておいてイイんだからさっ。キミはオンナノコなんだから」

続く声は、耳には届いたけれど。
少女のこころが描いたものはー。

靡く黒の長い髪。 それと交わる刃の銀と血の赤。 …… 紅と、金。






他の者に指示を伝え終え、執務室に向かうヒョーゴとキュウゾウ。
ヒョーゴは黙ったまま、キュウゾウに、物言わぬ背を見せている。
それを見つめる紅の眼は、いつもの伏せた眼差しで。
戦友と。更に永き月日を隔てていた昔を思い出し、どこか不思議な気分を感じていた。


暫く使用される事のなかった部屋の独特な空気を払うように、ヒョーゴは大きな歩幅で
机のある場所へと進んだ。 キュウゾウも、それに続く。

「お前を残しておいて、正解だったようだな」

手にしていた物を机上に置き、ヒョーゴは一声を硬く吐いた。

「ゆっくりで良い。聞かせてくれ」




 今日一日の出来事。

 詰まらぬ祭事に、煩わしい喧騒。
 それらに係る、場に、音。

 アカツキがみせた学舎での、憂いの溜め息。
 決勝を目前にした時間での、即打ち消された問い。
  『 キュウゾウも、私が勝つと、……嬉しいとかって思う…? 』
 並ぶる者など居ない場での、不可解な返答。
  『 ……そうでも…ないよ… 』

 優劣明白の決勝戦。
 下らぬ雑輩の言動。

 キュウゾウに、意図せぬ氣を起こさせた零れ声。
  『 ……そうかも、…しれない…… 』

 初めて知り得る、アカツキの想い。
 感傷せぬ、許す心。 そこに在る蠢く違和感。 己の心は無きものとしてー。
 強き者と、弱き者。 そこに在る劣等と追い。 沈み、潜り、浮かぶ。
 甘さと、綺麗ごと。 そこに在る恐さと逃げ。 闇と虚無の表れ。
 無心への言葉の意。 そこに在る少女の無心。 忘却の記憶。
 力以外の別の弱さ。 そこに在る友への慕情。 ヒョーゴへのー。

 追認するような、アカツキの問い。
  『 強さを欲しがっても、良いと思う? 』
 久しい大人顔の、アカツキの言葉。
  『 人はね、キュウゾウ。変わるんだよ 』

 そして…。 キュウゾウがアカツキへ投げ掛けた言葉。
  『 …お前は、それを赦すのか 』




淡々と。 訥々と。 紡がれる。


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