強く儚い者 24


24 未形


ヒョーゴも過去、練成大会を目にした事がある。
武家の子息が混じっているとは言え、それは余りにもお粗末なものだった。
形だけ見れば、成る程よく鍛錬された様を持つ者も居る。
だが所詮、戦の無い時代の剣でしかない。
人を斬り、命を断つ手段としてのものではない。

未だ未だ安定したとは言えぬが、少なくとも以前と比べれば、虹雅峡は平和だ。
寧ろ、実戦での剣など。 そんなものは異質として映す者の方が多いのかもしれない。
商人の時代は、剣の価値を落としめた。
今後、それは更に顕著な形となって、或る者達を苛む事となる。


 時代が変われば、何が正しいのかも変わってゆく。
 高きよりも低きに流るる水に似て。 自然と、静して、佇み変わる。


 ( もう、あの頃のような滾りとは。 目見える事もないのだろう…… )


 ヒョーゴの心を、嘗ての朋輩の勇姿が打つ。
 血沸き、肉躍る、戦場でー。
 その傍らに立つ、昂りに震撼する己。




「まるで遊戯だな」

仕合風景を眺めているうちに。 つい、口が滑った。 アカツキの目の前で。
チラリと窺うように、ヒョーゴは隣に立つ少女に目をやった。
アカツキは、その言葉を特に気にしたふうでもなく、じっと前方を見つめていた。
その様子に、密かにホッとした時ー。

「……でもね、兄様。あの中には、私には無いものを持っている者も居るんです。
 きっと、それはとても大切な事で。その中では、私は勝つ事が出来ないと思います」

視線の行方を変えぬまま、アカツキが言う。 謎掛けのように。

「…貴女は、其処で。それを得ようとしているのですか……?」

確信は無かったが、ヒョーゴは問うた。

「こんな事を言いながら、それが何か、私には解っていません。
 でも、何か得られるものがあると思えるのは確かです。
 此処で私が教わる事は、誰も奪う事の出来ない未形の財産になると思うのです」

神妙な面持ちで、アカツキは答えた。

「それに、いつか兄様も云ってくださったでしょう?
 『何ひとつ意味の無い事などありません』って。
 私にとっては、彼等との修練も、それに当て嵌まるんです」

云って、ヒョーゴに笑い掛ける。






少女の視線の先には。
純粋に、健気に、時には余裕を以て。 勝敗を追う者達が居た。
アカツキには無縁の波。


アカツキには、勝利への執着心が無い。
武道を極めようとする、追求心も無い。

言い換えれば、己の中だけでの帰結。
強く在る事に、手段は選ばず。
その為の道は、ひとつと限らず。

そこに在るものは、清々しいとすら云える、潔さ。


確かに。 武人は勝利に捕われ過ぎても失格。
けれど。 勝利への執着を欠いてもまた、失格。
勝利の上に意味するものも、人に拠り異なるだろう。

戦場に立つ事の無かった者が、この時代で尚、強さを求めようとする。
アカツキにとっての勝利とは… 何処にあるのだろうか。
強さを求める心にも、拠り所となるものが必要だ。
其れ無しでは、己を保って居られなくなる事とてある。

 …… キュウゾウの、ように ……。

無意識にでも、それを探ろうとするアカツキの姿に、ヒョーゴは変化を感じた。
只、漠然と。何かを追うように。何かに追われるように。
そんな痛々しさすら感じさせる、強さを求める有様が、緩やかに変わろうとしている。
未だ本人は気付いてはいないようだが…。


いつか。 それに辿り着ける時が訪れるとするのならー。
その時は、どうか。 傷を負うような事がないようにと。
アカツキの視線の行方を追いながら、ヒョーゴは願った。


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