Q夢想
侍7の9main
強く儚い者 24
24 未形
ヒョーゴも過去、練成大会を目にした事がある。
武家の子息が混じっているとは言え、それは余りにもお粗末なものだった。
形だけ見れば、成る程よく鍛錬された様を持つ者も居る。
だが所詮、戦の無い時代の剣でしかない。
人を斬り、命を断つ手段としてのものではない。
未だ未だ安定したとは言えぬが、少なくとも以前と比べれば、虹雅峡は平和だ。
寧ろ、実戦での剣など。 そんなものは異質として映す者の方が多いのかもしれない。
商人の時代は、剣の価値を落としめた。
今後、それは更に顕著な形となって、或る者達を苛む事となる。
時代が変われば、何が正しいのかも変わってゆく。
高きよりも低きに流るる水に似て。 自然と、静して、佇み変わる。
( もう、あの頃のような滾りとは。 目見える事もないのだろう…… )
ヒョーゴの心を、嘗ての朋輩の勇姿が打つ。
血沸き、肉躍る、戦場でー。
その傍らに立つ、昂りに震撼する己。
「まるで遊戯だな」
仕合風景を眺めているうちに。 つい、口が滑った。 アカツキの目の前で。
チラリと窺うように、ヒョーゴは隣に立つ少女に目をやった。
アカツキは、その言葉を特に気にしたふうでもなく、じっと前方を見つめていた。
その様子に、密かにホッとした時ー。
「……でもね、兄様。あの中には、私には無いものを持っている者も居るんです。
きっと、それはとても大切な事で。その中では、私は勝つ事が出来ないと思います」
視線の行方を変えぬまま、アカツキが言う。 謎掛けのように。
「…貴女は、其処で。それを得ようとしているのですか……?」
確信は無かったが、ヒョーゴは問うた。
「こんな事を言いながら、それが何か、私には解っていません。
でも、何か得られるものがあると思えるのは確かです。
此処で私が教わる事は、誰も奪う事の出来ない未形の財産になると思うのです」
神妙な面持ちで、アカツキは答えた。
「それに、いつか兄様も云ってくださったでしょう?
『何ひとつ意味の無い事などありません』って。
私にとっては、彼等との修練も、それに当て嵌まるんです」
云って、ヒョーゴに笑い掛ける。
少女の視線の先には。
純粋に、健気に、時には余裕を以て。 勝敗を追う者達が居た。
アカツキには無縁の波。
アカツキには、勝利への執着心が無い。
武道を極めようとする、追求心も無い。
言い換えれば、己の中だけでの帰結。
強く在る事に、手段は選ばず。
その為の道は、ひとつと限らず。
そこに在るものは、清々しいとすら云える、潔さ。
確かに。 武人は勝利に捕われ過ぎても失格。
けれど。 勝利への執着を欠いてもまた、失格。
勝利の上に意味するものも、人に拠り異なるだろう。
戦場に立つ事の無かった者が、この時代で尚、強さを求めようとする。
アカツキにとっての勝利とは… 何処にあるのだろうか。
強さを求める心にも、拠り所となるものが必要だ。
其れ無しでは、己を保って居られなくなる事とてある。
…… キュウゾウの、ように ……。
無意識にでも、それを探ろうとするアカツキの姿に、ヒョーゴは変化を感じた。
只、漠然と。何かを追うように。何かに追われるように。
そんな痛々しさすら感じさせる、強さを求める有様が、緩やかに変わろうとしている。
未だ本人は気付いてはいないようだが…。
いつか。 それに辿り着ける時が訪れるとするのならー。
その時は、どうか。 傷を負うような事がないようにと。
アカツキの視線の行方を追いながら、ヒョーゴは願った。
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