強く儚い者 25


25 善因


未だ納得のいかぬ顔をするキュウゾウに、ヒョーゴはそれ以上の事を告げず。
閉じられた戸口に視線を移した。見える筈のない、外の風景を追うかのように。
やがて、口を開く。

「俺も姫様に訊かれた。自分が勝つと嬉しいかと」

出立前夜の、アカツキの探問。
キュウゾウにされたものと同じ、問い掛け。


「……ヒョーゴは、何と…」

「無論、言ったさ。嬉しい、とな」

薄い笑みを見せながらも、どこか沈んだものをヒョーゴは漂わせていた。
… 自分も、そう答えれば良かったのだろうか…。

「だが、それが姫様の負担になるのではとも思った」

後に続いた言葉に、益々キュウゾウは解らなくなる。
… どういう事だ…。

キュウゾウの、微かに顰められた眉を見て、ヒョーゴは補うように言う。

「姫様は、自身の取るべき行動に惑いがあったのだろう。
 己の力を示す事が、果たしてその場に相応しいかどうかと。
 お前も今日、いいや、普段から見て解っているだろう?
 あそこには、人を斬る為の剣など存在せぬ。
 そんなものを見たいとも、ましてや知ろうとする者も居らぬ。
 今回物見に集った連中とて、同じだ…」

そこまで言って、ヒョーゴは空にした湯呑みの中味を足した。
新たに揚がり立つ白い湯気を、キュウゾウは見つめる。

「実際にその場に立つのは姫様自身だ。俺達の言葉が姫様にとって助言となるのか、
 負担となるのか、それを受け取ってどうするのか、それも姫様自身が決める事。
 解ってはいても、やはり懸念は残る。例え違う応え方をしていたとしてもな」

器を掴む手が、湯気を遊ばせるように動かされる。
一呼吸置くように、ヒョーゴはそれを飲み干した。


「最後まで手を抜く事とて出来たであろうに。何か思う事があっての事だろう。
 当然、後に残るものも姫様は解っておられる。解っていて尚、為された。
 只…、お前に対しての言動には、ちょっと姫様も困られただろうな…」

最後の言葉は、片方の口端を上げた、からかうようなものだった。

「その場に居たのがお前で、…俺は善かったと思っている。
 お前も、姫様を知る事が出来ただろう?」

張り詰めていた重い空気が、見えない風の流れで弛んだ。




 自分の事を、ヒョーゴは怒ってなどいない。
 では……。



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