強く儚い者 30


30 高み



「 ………高みへ、か… 」

そう呟いた男は、俯きがちに、唇の端だけを持ち上げて、声もなく微笑った。

己の、属望に。
友の、的中の言葉に。
想い描いた、アカツキの姿にー。


成る程。 云われてみれば、その通りだった。
気付いてしまえば何て事はない。


 自分は、唯ー。 アカツキに………。






「どうだ、少しはスッキリしたか?」

変わらぬ表情で、ヒョーゴは声を掛けた。

「 下らぬ者の相手など、あいつにさせなければ良い 」

整然とした座位に相応しい、キュウゾウの、揺るぎの無い口調。

「おいおい、言っただろう。姫様には姫様の思惑がある。
 何もかもをも取り上げてしまっては、本末転倒も良いところだ。
 全くっ。両極端な奴だ、お前という男は…」

やれやれと、ヒョーゴは溜め息をつく。

「大体な、下らぬ輩は、それこそ何処にでも居るものだ。
 それを全て、お前は排除するつもりなのか」

キュウゾウが言うと、こいつなら遣り兼ねんと思えてしまうから恐い。

「それにな、今日の少年とて、下らないの一言で括れる者ではない。
 一時(いっとき)の感情が、愚行を招く事とてある。
 弱い者も居るんだ。誰もが強い訳ではない」

じっと黙って話を聞いているキュウゾウは、やや不服そうにも見える。


「 …ヒョーゴも、甘い 」

ボソッと、呟かれた。
ささやかな、キュウゾウの反抗。

「甘い事を云って、綺麗事を追って、それでも強く在れれば良い」
「 ……それは、あいつの事か… 」

紅の瞳が、瞬きで一瞬、消えた。

「攻める側にどんな事情があろうとも、受ける側はみな同じように痛い筈だ。
 それに気付いたとしても、姫様は、やはり相手を赦すだろう。…優しい人だ。
 その優しい部分を、もっと強く育ててやりたいと、俺は思う。
 甘い考えは、優しくて甘いものだろう?」

ヒョーゴは、甘事以上の穏やかさで、キュウゾウに微笑う。


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