強く儚い者 31


31 是認


「なぁ、下らないと云うのなら、姫様に振り回されている俺達も、相当なものだぞ。
 当の本人が価値の無いものとして扱っているものを、守ろうとしているのだからな。
 滑稽な話だ」

その、ヒョーゴの自嘲の言に、キュウゾウは黙して肯定も否定もしない。
只、訝しげな視線を向けた。

「………だがな、俺はそんな自分が気に入っている」

誇らしげな声と。ニヤリと吊り上げられた紅差す口唇。
それを認めた紅の双瞳が、ひと揺れして、閉じられた。




「 あいつが強さを求める事、…何も間違ってなどいない 」

唐突に、キュウゾウは確信の言を口にする。

「 ヒョーゴの云う事も… 」

更に、続く。

「 俺も、……間違っていない 」


最後の声は、どこかヒョーゴを窺うような低さだった。

何事に対して言っているのかと、ヒョーゴは慮る。
アカツキの心の内を知り、生じた違和感は、僅か乍らでも解明できた筈だ。
其処で持ち得た所感は、キュウゾウ自身のものであって、常日頃なら、
こんなふうに追認してはこない。
この出方は、気遣う数少ない者を、キュウゾウなりに思い量っている時だ。


未だ。 ヒョーゴには、胸襟を開いてキュウゾウに示していない事が有った。
己の事は解らない。 其れに、嘘偽りは無い。
だが…。そう云って置き乍ら。自分と類する友の心情を把握する振りをし乍ら。
昂った感情を、鎮めていた。
その中のひとつを、未だ。 話していない。
キュウゾウは、それに、気付いていない筈だ。 感じてもいない筈だ。
だからこそ…。

ヒョーゴの中にも、アカツキと似た想いが在った。
自分の心が伝わらないかもしれない。 自分だけが、此のように…。
それでもアカツキは、キュウゾウに、胸襟を開いたのだ。
己とは異なる、強さと弱さー。




やがて、逡巡の中でヒョーゴは思い至る。

「ああ、そうだな。感謝している」

キュウゾウの自訴は、…この、今の自分達の内談だ。
きっとアカツキは、戸惑いの様を見せたのだろう。自分に話す事を。
いや、話すかどうかの迷いを。
…だが、迷ってくれただけでも幸いだ。何も知らされぬ事と比べればー。
だからと言って、アカツキ自らが、それをキュウゾウに託す筈もない。
問い質したのは自分だったが、それに応え、明かしたのはキュウゾウ自身の判断だ。

「姫様に再言させるのは、俺も辛いところがあるからな。助かった」

苦笑をもらす。


キュウゾウの言葉には、他にも何かが含まれているのかもしれない。
だとしても、今ヒョーゴが言える事は、これくらいのものだった。
あまりにも、多くの感取が有り過ぎた。今日の、誰もにー。


「自分から言う事に躊躇するのは、話したくないという気持ちがあるからだろう。
 そこまで強要する事は、俺には出来ん。
 それに…。姫様自身が、話せない事もあるのだろうな。
 話せない、と言うよりも寧ろ…。覚えていない、と言うべきか…」

慎重な口振りで、ヒョーゴは言葉を選ぶ。


ヒョーゴも初めて知る、アカツキの父親の影。
キュウゾウの質疑すらも躱した、忘却の記憶。

原因は知らずとも、物事は必然的に、何かを生じさせる…。


「そろそろ俺達も、内情を知っても良い頃であろうか。お前はどう思う」

キュウゾウは、黙して肯定も否定もしない。
だが今度は。 ヒョーゴには沈黙が肯定に思えた。




もうじき。 アカツキは。
ヒョーゴとキュウゾウが、参戦した歳となる。


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