強く儚い者 32


32 類


「さて、俺は未だ仕事が残っている。お前も継続のカムロと交代してやってくれ。
 夜勤の奴らが出て来るまでで良い。夕餉はそれからでも構わんだろう」

すっかり冷めきった湯呑みの中味を飲み干すキュウゾウに、告げた。
チラリと視線を寄越した無表情が、いつもの眺めに戻ったのを認め、
ヒョーゴは胸を撫で下ろすような安気を感じた。
次いで、その目線が机上に移るのを追う。

「これは姫様に、だ」

ヒョーゴが机の上に置いた物の、その形状から、中味を察したのだろう。

「お前は後だ」

紅の眼差しを去なすように、ヒョーゴは手を振った。




追い払われたキュウゾウが、戸口に向かった時。

「今日の姫様は、…どうだった」

ヒョーゴは問う。 敢えて、この時を選んだかのように。
辛苦なものではない、今日アカツキが示したもの。
アカツキが、キュウゾウに…。 観せたもの。

「 ………あいつは…俺達と、同類だ 」


スッと。ヒョーゴの表情に翳りが生じた。
それを、キュウゾウは見逃さなかった。


「そうか…。俺も見たかったな」

すぐに、弛められた口唇。


「 …ヒョーゴ 」

ん?と、友の呼称に、ヒョーゴは眼で応える。
それを一瞥し、キュウゾウは襖を開けた。
現れた夜の風景に視線を留めたまま…。

「 ………ヒョーゴにも、…在るのか。 ヒョーゴも……変わるのか… 」

答えを求める訳でもなく。
呟くような問い掛けを残し。 
キュウゾウは、ヒョーゴの気配を背に感じながら、部屋を後にした。




寡黙な男が去った室内は、酷く静かだった。
常に無い談話を交えた時間の密度が、更に濃さを増して還って来る。

( 俺も、お前達と同じなのか。…お前には、そう映るのか… )

ぼんやりと、ヒョーゴは天井を見上げた。
空ではない。まして月が浮かぶ事もない。 只、頭上に在るだけの、低い空間。

( …… キュウゾウ …。 俺も変わるんだ。いや、……既にもう…… )

視界を拒むかのように、目蓋を伏せた。


 『 人はね、キュウゾウ。変わるんだよ 』


暗闇の中で。 実聞した筈のない、少女の声が。 木霊する。


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