強く儚い者 35


35 反応


馳せ参じたテッサイとウキョウを見送り、アカツキは回廊を進む。
手には、中味が三分の二となった重箱を携えて。

使用人達の居る処を巡り、それを配り歩いた。
ちゃんと、ボウガンからだと言い添えて。
みな驚き、不思議そうな顔をしていた。
あの桃色髪の用心棒と、美味しそうな慰労の品物の取り合わせに。
でも、キレイな菓子には、喜んでくれた。
最後に会った、ずっと付いてくれている世話人だけは、違った反応を見せた。
驚いたような表情は同じだったが、酷く喜んでいた。
とても嬉しそうに、アカツキに、笑い掛けてくれた。


順調に中味の減った重箱を抱え、今度こそ、目的地へと向かう。
心做しか、緊張していた。 ウキョウや皆と別れ、一人となった所為だろうか…。
そんなふうに考えていると、前方から近付く気配があった。
誰か、など。問う必要も無い。 何処から来たのかも…。


「 キュウゾウッ 」

駆け寄って。

「兄様に話したの!! もしかして…」

叫んで。 窺って。

応えを待つが、返って来る言葉は無い。
爪先立って、火の紅の瞳を覗き込んだ。
何の揺らぎも無い、静かな色が視える。

その瞳が、アカツキの手許へと落ちた。
これは何だと言っている。
気に掛かっている事をそのままに、アカツキは応える。

「ああ。これね、さっきボウガンさんに戴いたの」

片手で底面を支え、もう片方の手を、風呂敷の結び目にやった。
解こうとするアカツキの指をフワリと掴み、白く細い指が、それを代行する。

包みを取り、蓋を開け、空の箱を持ち上げ、もう一つ空箱を持ち上げ。
最後の箱の中、隅で踞る手綺麗なものを、キュウゾウは見つけた。

「皆へのお留守番のご褒美だって。これは私達の分だよ。いま食べてみる?」

両の手で器を差し出し、アカツキは促す。
少し、考えるような仕草をして見せ、キュウゾウはそれを手に取った。
小食者のように、一口ずつ口にするその様子を、じっと見つめ、

「ほんとにキュウゾウは、ヒョーゴ兄様にはなんでも話しちゃうんだから…」

しょうがないなーと言わんばかりの口調で、笑みを向けた。

「お前とて」

短く応えた男は、また手を伸ばす。
どうやら甘過ぎてはいなかったようだ。 未だ食べていないアカツキは味を知らない。
今の、この菓子は、…食べてはいない。 実感のある甘さは知らない。
自分とキュウゾウの分として、最後の最後に残して置いた甘味は、
二つ共、キュウゾウのものとなった。
食すキュウゾウを眺め、まぁいいか、気に入ったみたいだし、とアカツキは思う。
そして…。


「ねぇ、キュウゾウ。…兄様、……どんな顔をしていらした?」

全て空となった重箱を仕舞いながら、不安げに、問うた。
今、自分が。どんな顔をしているのか。
まるでそう訊いているかのようなー。

キュウゾウは、すぐには応えてくれない。 いつもの事だ。
辛抱強く、無表情を追い掛けた。



「 お前が自分で、確かめて来い 」

突き放すような言葉。
でも、そうではないと、アカツキは知っている。

「 ………うん。そうだね 」

空になった重箱と同じ、軽くなった気持ちと共に、足が前に進んだ。
擦れ違い様、キュウゾウに、笑って告げる。

「 ありがとう、キュウゾウ。私、キュウゾウが居てくれて、本当に嬉しい 」

ヒョーゴの居る部屋へ、進んでゆく。



その後ろ姿を、跳ねる黒髪を、キュウゾウは静かに見送って。
何故か思い浮かんだ己の言葉。


 『 …お前は、それを赦すのか 』


そして。 いま新たに、感じた事ー。


( お前は……。 お前自身を、赦す事が出来るのか…… )



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