強く儚い者 39


39 若輩


先に、ヒョーゴに問うたのは、自分だった。 人との接し方をー。
訊かずにはいられなかった。
ヒョーゴに、何かを。
訊きたかったのかもしれない。云って欲しかったのかもしれない。
それに気付いていたとしても。やはりヒョーゴは…過剰な手段は取らない。
とても、穏やかだ。



「キュウゾウは……兄様の何に、怒ったのでしょうか…」

きっと、一言では伝えられないこと。
そのアカツキの思いの通り、ヒョーゴは緩やかに話し続ける。

「私も入隊直後は、言葉の過ぎる事もありました。まだ若かったですからね。
 そんな時、一人の上官に云われた言葉があります。
 響くものは確かにありましたが、それを実感するには、私はまだ若輩過ぎました。
 それでも、微かに周りが視えてもきました。戦場は…己を見直すには格好の場です。
 荒む者にも、絡んでくる者にも、何かしらの傷があっての事でしょう。
 かと言って、それら全てを推し量る程の度量など、私も持ち合わせてはいません。
 私の出来る事と言えば、受け流す程度の事です。事を大きくしない為にもね。
 身の内では抑え込んでいる感情が有り乍らもー。
 そんな私が、キュウゾウには赦せなかったのでしょう」

ああ、その当時からヒョーゴは…。
そんなヒョーゴを、キュウゾウは、知っているんだ……。
何に対してか、定まりのない感情が、アカツキを覆った。

「戦闘中以外の場で奴の昂りを知った時、不思議と落ち着いた気分になったのを
 よく覚えています。自分だけの感情に捕われているどころではないと。
 感情を抑え込むだけでは、何の解決にもなりません。ましてや吐露するだけも。
 当の本人は、大した考えはなかったのでしょう。漠然とした不快感くらいで。
 そんなキュウゾウは、私にとっての、感情の楔(くさび)留めともなる存在でした」


  人は、早くに自身を確立させた者のほうが強い。
  それらが重い荷を課す事になろうとも、己の進む道は見えてくる。


「相手がもし。詰まらない人間に見える時があるとすれば、
 それは自身の関わり方に問題がある。そういう時もあります。
 人を変える事は容易ではありません。それならまず、自分が変わるしかないのです」

厳しさを含んだ、ヒョーゴの低い声。

「その上官が、私に伝えた言葉のひとつです。
 皮肉な事に、その方が去られた後になって、キュウゾウが現れてから、
 漸く私にも、解るようになりました」

「その方は…」

訊いてはいけないような気がした。
ヒョーゴの表情が、一瞬。 翳ったから。

「戦が終わる前に退役されました。地上で再会を約束しましたが…。
 未だ私は、お逢いするには至らない輩です。
 それに、今となっては軍も崩壊し、居場所すら掴む事もままなりません」

それ以上は、訊けない。語られない。



「姫様。容易に変える事の出来ない人という存在だけが、人を変えも致します。
 今日のキュウゾウも、姫様も、何かを得たかもしれませんね」

いつもの、ヒョーゴの優しい声と。 眼鏡の奥の、慈愛の眼。


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