Q夢想
侍7の9main
強く儚い者 40
40 寛容
ヒョーゴとキュウゾウからは、絶えず得るものはあった。
その殆どは、斯くも穏やかで温かく、圧倒的な強さでもあり、優しさだった。
今日の、キュウゾウは…。
「私、あんなキュウゾウを見たのは初めてでした。
どうにかしたいと思いながら、なにも出来なくて…。
今でも、ちゃんと伝えることが出来たかどうか、…解りません。
でも、兄様の話を聞いて、…こんなこと、いけないとも思うのですが…。
とても嬉しいと、そんなふうにも思います」
ヒョーゴが言葉を紡ぎ出してから、初めてアカツキは弱く微笑んだ。
それを認め、ヒョーゴはー。
「今日キュウゾウが、相手に斬り掛かってゆく事がなくて、本当に良かったです。
奴も、少しは大人になったのでしょうね」
「まさかっ。キュウゾウはそんな事しませんよっ」
今のキュウゾウが、そんな行動に出るとは、ヒョーゴもアカツキも思ってはいない。
だが、今のこの流れでは、愛しくも戯言の対象となっていた。
可笑しそうに、少女に明るい笑みが戻る。
「それに、ヒョーゴ兄様だったからですよ、きっと。キュウゾウのそんな行動はー」
「確かにそれも有ると思います。私と姫様とは、立場が異なりますから」
思った通りの事を口にし、そのまま肯定された事に、アカツキが何かを感じる前に、
その暇さえも無く、ヒョーゴは言葉を重ねた。
「私とキュウゾウは、飽くまで対等です。嘗ては私の下に居た当時すら、そうでした。
姫様は、もっと別の処に立っておられます。感情さえも遠く及ばない程の処に」
一瞬、惚けた顔を見せた。 少し、表情が翳る。
…… 屋敷内での立場の事を言っているのだろうか …。
…… それともやはり、私が弱い、から ……?
アカツキにとっては、酷く哀しい現実のひとつ。
「いえ、そうではありません」
声にはされなかった疑問は、直ぐさま否定される。
「どうか悪い方には受け取らないで下さい。いずれ、姫様にも解りますよ」
要領の得ない、ヒョーゴの謎語。
今、知りたいと思う気持ちと。 いつか、其処へ辿り着けるのかという期待と。
両方の誘惑が、穏やかな距離を置く向こう側にはあった。
「ひとつ、私からも申し上げておきましょう」
「 はい 」
改まったヒョーゴの物言いに、自然とアカツキは居住まいを正す。
「刃を以て力尽くで向かってくる者は、はっきりとした形で見る事が出来ます。
ですが時には、言葉を以て抗う者も居りましょう。その是非は非常に曖昧です。
もし相手を赦すとするならば、其処には自身の覚悟が必要です。
それが、相手への許容ともなってくれるでしょう。甘やかしとは違います。
相手を認めるからこそ自分も認められる、そんな寛容の心です。
貴女には、そんな人になって頂きたいと。私は願っております」
「 私に…それが出来るのでしょうか… 」
「ええ、姫様ならきっと」
ヒョーゴがそう云ってくれるのなら。
思わず、そんな想いを持った自分を、アカツキは振り払った。
誰が、ではなく。 自身で。 そうなりたいと思わなければいけないんだ……。
「兄様。見なければいけない事は、沢山あるんですね。
斬る相手だけではなくて。もっと多くのものが…。
すぐには無理ですけれど、ちゃんと、私も向き合っていきたいと思います。
………やっぱり、知りたいとも思いますから。……恐い事も哀しい事も…」
アカツキの声から、ヒョーゴは力を感じた。
標的に向かって放たれた矢のように、唯一心に、強さを追い続けていた少女だった。
その真摯しさは損なわれる事もなく、今も存在している。
だが、張り詰めていた心の撚り糸からは、様々な表情が見えるようにもなってきた。
人はみな、この世に強さを持って生を受けた。
アカツキの持つ其れは、更に顕著なものだ。
その強さを自覚させ、それを生きてゆく勇気と誇りに変えてやりたい。
高みに居て欲しいと願うのは、何もキュウゾウだけではない。
何者にも勝り、尊いと想う者を、曇らせたくはないとする己とて同じだ。
アカツキの脆弱さが、現実への執着と望みなのだとすれば、
己の甘さと優しさは、それを護るものとしてー。
ヒョーゴの、切なる想いが、身の内に木霊する。
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