強く儚い者 42


42 行方


積もった書類に目を通し終え、ひと区切り付けると、ヒョーゴは頃合いをみて
キュウゾウの許へと向かった。そろそろ交代の時間だ。
廊下を進む途中、澄ました顔の紅のサムライと出会った。

「ご苦労だったな。飯に行くか」


屋敷内での食事は、時間帯に差の生じやすい警護の者達への配慮がされており、
各部署の食堂にて、何時でも食す事が出来た。
アヤマロ直属の用心棒ともなると、希望すれば私室へ配膳しても貰える。
役職に見合い、待遇は良かった。

今夜はこのまま済ませておこうかと、ヒョーゴはキュウゾウを食堂へと誘う。
キュウゾウは、何も声にはせず、後に従った。




「後で姫様から頂くと良い」

夕餉を挟んで、ヒョーゴは言う。

「ああ、お前はもう喰ったんだったな。旨かったか?」

先の台詞は、ヒョーゴの土産物。 後のものは、ボウガンの貢ぎ物。
黙々と食していた紅の眼が、チラリと黒を窺った。
何も答えては来ないが、どうやら話の内容は通じているようだ。


「姫様がアレを手にしているのを見て、お前、何か思ったか?」

キュウゾウも、自分と同じように、アカツキの変化を感じたりしたのだろうかと、
ヒョーゴは問うてみたくなった。


「 ………そんなに、腹が減っていたのかと… 」

「 ハァ? 何を言っているのだ、お前は 」

「 ……無かった。中味が 」

( 訊いた俺が馬鹿だった… )


「それは若と他の者が喰った後だからだ」

溜め息混じりのヒョーゴの呆れ声。

「 ……聞いた。あいつに… 」


それ以上、話を続ける気にもならなくなったヒョーゴを前に、
キュウゾウの思考は、独り頭の中で、訥々と続いていた。
この時点で、ヒョーゴとボウガンの品が同じ物であったとは、キュウゾウは知らない。
中味など問題ではない。 気に掛かったのは、その行方ー。

不器用なキュウゾウは、この上なく微笑ましい様すらも見せてはくれるが。
寡黙な男の、秘められた友への想いは、とうとう知られる事もないままに終わった。




食事を終え、何を話すでもなく向かい合い、座ったままの二人。
どちらも、席を立とうとはしなかった。


「 …… ヒョーゴ 」

沈黙と同化したような、閑かな呼び声だった。
呼ばれた男も、目蓋の動きで細やかに応える。

「 ヒョーゴは、何に…怒っているのだ… 」

唐突な疑問を掛けられ、少しこいつを侮っていたか、とヒョーゴは改めた。
何も不思議ではない。 向ける気持ちも相手も、同じものなのだから。


「ヒョーゴは、俺に怒っていないと言った。あいつの事も…。
 俺には善しと云えども、己は否とする。では…、ヒョーゴのそれは、何処にある」

キュウゾウなりに紡ぐ、たどたどしい言葉は、正しくヒョーゴを射貫いた。

答えは既に有った。
それを口にする事に、微かな抵抗が、在った…。
真摯に問われた想いを、受け流す事も、出来ない。


「 強いて云えば。…俺自身。そんなところだ 」

紅の眼から逸らされた、黒。

「俺は、大した事はしてやれない。姫様にも、お前にも…。そんな自分に腹が立つ」


再び訪れる沈黙…。


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