強く儚い者 45


45 朧月夜


感じた気配は奥の部屋、灯したままの寝室にあった。
規則正しく繰り返される眠りの呼吸が、室内の空気をも律動させているようだった。


「 アカツキ… 」

小さな身体を覆う気を、静かに呼ぶ。

熟睡時の気配ではなかったが、疲れているのだろうか。
閉じられた目蓋を縁どる睫毛すら、揺れる事はない。
枕と同化したネコのぬいぐるみの、大きな目だけが、キュウゾウを見返していた。

ぐるりと部屋を見回すと、申し訳程度に置かれた書机の上に、見覚えのある箱。
… ヒョーゴの、ものだ。 アカツキの為に、ヒョーゴが持ち帰った …。
一度解かれたそれは、丁寧に包み直され、部屋の主を待っていた。

アカツキが、いそいそと。それでも慎重に、コドモな様を見せながら解かれたソレは、
キュウゾウの手に拠って、豪快に破られる。ビリビリと、紙を裂く音が響く。


蓋を開け、一呼吸の間を置いて、漏れた愉色の微笑。
先程まで共にいた、ヒョーゴの顔が浮かんだ。
怒りのものでなく、愁いのものでもなく、やや苦笑気味の表情がー。

箱の中には幾つかの空間があった。
空腹だったのかとは、勿論、今は思いもしない。
唯、…何か好いものとして、感じられた。

無造作に包みを破した同じ手が、そっと。 中味に延べられる。






キュウゾウが風呂から戻ってからも、アカツキは目を覚ます事はなかった。
わざわざ起こす必要もないのだが、なんとなしに、小さな手に触れてみる。
湯を使ってすぐの自分より温かな、コドモの体温が伝わってきた。

少しの身じろぎがされ、咄嗟にキュウゾウは手を放す。
外部からの刺激に身体は反応を示したが、覚醒には至っていないようだ。
睡眠中の者を前に、気配を感じさせる事は避けた方が良いのだろうが、
ことアカツキに限っては、自分は気を消さないでいた方が、どうやら良いらしいと、
キュウゾウは既に学習済みだ。 それは、ヒョーゴに対しても言える事で。



縁側の窓を開け、湯上がりの身を風に晒し、月の浮かびに眼を向けた。
今夜の月影の色…。
アカツキの最も欲する、そして最も寂しいとする、黄の月光。
満月でないのは、幸か不幸かー。
夜の塔ではなく此処で。手の届かぬ天つ空へと、今宵も腕を伸ばしたのだろうか。

欲するものの先に、何があるのか、キュウゾウは知らない。
何を求めようとするものなのかも、解らない。
アカツキ自身も、曇り夜のような漠然とした心緒なのだと言っていた。
空の世界を夢む自分とは、どこか異なる想望を見せて。

解り切る事は出来ずとも。為せる助力が例え僅かなものであろうとも。
今の己の存在が、何処かで何かの補いとなるのであらば、それで善いと。
そう、思っていた筈の心が。
時おり揺らぐこの様は、… 何故の事なのか …。



ほのかに霞む、黄の月。
朧月夜に光る、金の髪。


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