想いの行方 1




  傍に、キュウゾウが居る。


 教室内の窓際。
 なにかを呟いたなら、手を伸ばそうものなら、簡単に届く距離だ。
 陽射しを跳ねる光の髪も、落ちそうな目蓋を縁どる薄い睫毛も、いつもの光景だ。
 教卓で話す教師の声も、たぶん届いてはいないのだろう。


  オレの視線は、…… 感じているか ……?


 こんなふうに、窓の外の景色と一体化したようなヤツを眺めているオレも、
 代わり映えのしないオトコだと、机の上を音も無く叩く指先が教えている。
 このリズムは。
 ヤツを呼ぶモノなのか、自身の焦りから来ているモノなのかー。



   想いの行方



「お前、先に帰っていろ。オレは遅くなる」

有無を云わせない強い口調で、ヒョーゴは言い捨てた。

「また、か…?」
「ああ、ちょっとイロイロあってな」

何を、と訊かれることを避けるように、キュウゾウに背を見せたヒョーゴだったが、
すぐに振りかえり。

「飯は先に喰っていろ。オレを待つんじゃないぞ」

家に帰れと言っても、どうせ店で待つに決まっている。
先に食べさせておかないと、コッチが気が気でない。
自分の居ない間は、シチロージに任せておくかと、ヒョーゴはキモチを切り替えて、
足早に教室を出ていった。


しばらく、ボーッと黒の髪が揺れていた空間に視線を留めていたキュウゾウは、
以前にも感じたコトを、また、思いかえした。

( ………イロイロって、なんだ……? )



「 キュウゾウッ 」

野太い声がした。
呼ばれた名に、というよりも、思考を中断させた雑音に、キュウゾウは反応する。

「お前ひとりか? ヒョーゴはどうした」
「 ………いない… 」

誰だ……?
ヒョーゴが居ないと、何処の誰なのか、すぐには判断のつかないキュウゾウの頭の中。
ヒョーゴの名が出たので、とりあえず応えてはおいた。
ヒョーゴは、……いない。とりあえず、いまはー。

「まぁ良い。お前がウンと言ってくれたら、ヒョーゴも動いてくれるだろう。
 頼む、今度の大会に出てくれっ!」


黙ったままのキュウゾウに、根気強く頼みこむ男は、高等部の剣道部主将だった。
いくらボンヤリ頭のキュウゾウでも、剣を交えた者くらいは覚えている。
認識が無いということは、相手がその程度の腕だったというコト。

「とにかく来てくれよ。顧問にお前たちを連れて来いと言われているんだ」

スッと、キュウゾウが立ち上がる。
来てくれるのかと、ホッと男は胸を撫で下ろした。
だが、さっさと教室を出るキュウゾウの向かう場所は別のトコロ。
追いかけてくる男の存在も、すでに頭には無い。


廊下をひとつ曲がった所で。

「ヒョーゴだっ」

意識が高まる音を、聴いた。
存在は無かったが、その者の声がカタチ創る名には反応した。

音の向かった先へとキュウゾウが眼を向けると、中年の男がヒョーゴと居た。
剣道部顧問が、ヒョーゴを捕まえていたのだった。
それを認め、主将もソチラに駆け寄っていく。


ヒョーゴの視線が、顧問と主将の間を擦り抜け、キュウゾウへと送られる。
軽く、顎を振った。

『 行け 』

そう、ヒョーゴは云っていた。



シチロージの居る店へと、キュウゾウは。
2人の男たちの依頼を上手くあしらったヒョーゴは、担任の待つ職員室へと。
それぞれの行く先へと向かった。


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