想いの行方 6

6


ヒョーゴのバイクで、ヒョーゴが運転し、住処へと戻ってきた。
キュウゾウの家の前で、ゆるやかに停まる。

「着いたぞ」

微睡むこともなく、腰に腕を回すこともせず、後部シートにいたキュウゾウは、
片手をヒョーゴの肩に乗せ、重みを感じさせない軽い動作でスッと単車から降りた。
すぐさまメットを取る。
静かな夜の住宅街に、規則正しく繰り返されるエンジン音だけが、やけに響いていた。


 ヒョーゴの言葉を待つ。
 自分の言葉を呑みこむ。


「寝ろよ」

短い、籠った、オト。

ひとことを残し、ヒョーゴはバイクを発進させた。
遠ざかる音と背。キュウゾウは、唯それを見送る。


盗み見るように、わずかに振り向かれたその表情は、メットに隠れていた。
とうとう微笑うところを見せなかった黒の瞳は、シールドに遮られていた。
安心を誘うハズの、声は……。
短過ぎて。よく聴こえなくて。 …… 遠いモノに感じた。


出逢ったときから何度も言った台詞。

『 ヒョーゴ、今夜はオレの部屋で…… 』

言えなかった。 声が、出なかった。
それでも聴こえていると。
伝わっていると。
確信は、あった。
けれど、背を向けたまま…。
ヒョーゴは行ってしまった。


 ついさっきまで、見慣れた黒いシッポが、目の前に在ったのに。
 ヒョーゴの背中が、なんだか遠い。
 声を掛けようとする自分の声が、届かないような。

 そんなヒョーゴは、これまでにもあった。
 いつからかは分からない。そう昔のコトでもない。
 けど、すぐにいつものヒョーゴが、還ってくる。
 手の温もりを思い出させる眼と、ホッとする声を、携えて。
 
 バイクから降りようとはしないヒョーゴだったから、
 見ることが出来なかった。聴くことが出来なかった。


 ……… なんだか、…… オカシイ …。




オカシイのは。
自分を残して去った、ヒョーゴのコトなのか。
立ち尽くして見送る、キュウゾウ自身のコトなのか……。


傍に誰も何も在りはしないキュウゾウの空間に、忍び寄ってくる。
無機質な、闇色のモノが、ヒタヒタとー。


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