想いの行方 13




 唯一の存在を知り。 無二のココロを知ってから。
 眼は、追いかける。 脚を、止める。 そして振りむく。

 そばに居ないときには、求めて奔る。
 約束なんかしたことはない。
 そんなものがなくったって、オレはー。

  ギィ…

 耳につく金属音が、あがった呼吸を整えろと知らせる。
 たいした距離でもないというのに。
 いつも胸のなかは、カラダは、高まってゆく。



 呼ぼうとする声はいつだって。役に立たずに消える。
 わかっていたというような顔をして。うれしそうに。 

 アイツが笑うから。




13


変えたモノは、光と熱。 ……… やわらかさ
甦った情動は、愛くるしさと震え。 ……… いとおしさ
浮かんだ景色は、刻々と変化してゆく空の色。 ……… 逢魔が時


 キセキの、刻ー


鮮明となった視界の、いちばん近い場所で。
赤褐色が。 微笑う。






不思議なほどに、あっさりと。 昂る感情が消えた。
ヒョーゴの中で、跡形もなく。

さっきまでの時間と、いまのモノはー。
まったく違う、べつの空間のように…。 2人をとりまいている。


「 馬鹿が… 」

いつもの。 いつものヒョーゴの口癖。

「 風邪をひくだろうが 」

どんなときも。 どんなときでも気に掛け送られる眼差し。


掴んだ指を確かめるように眺めて、その手は放さず。
キュウゾウは、スッとヒョーゴの懐に入り込む。 …… 受け入れる。
相手に避けられるコトなど、絶対に有り得ない。 …… 避けるコトなど。
そんな暗黙の了解のように、至極当然な動きのように、交わされる仕草。
くすぐったさを与えてくる金色の髪が、ヒョーゴの首筋に触れる。

「 ヒョーゴ、髪が濡れているぞ 」

おぼえのある、自分のものでもあるシャンプーの香りに近づいて。
キュウゾウは、かすかに頭を揺らした。
細指と金糸が起こす以上の、もっと繊細な感触が。
まだすこしの湿りを残した、ヒョーゴの黒髪にー。

よりいっそう縮まった、微妙な距離。


「 お前のせいで湯冷めしそうだ 」

呆れたようにヒョーゴが声を掛けると、キュウゾウは見上げかえし、

「 オレも入る 」

いつもの、マイペースな澄ました顔を見せた。

「 湯は張ってないぞ 」
「 なら、シャワーでイイ 」

余韻を味わう情緒も与えようとせず、パッと掴んだ手を放すと、
スルリとキュウゾウのカラダは離れ、スタスタと先を歩いて行ってしまう。
目の前にある自分の家に背を向けて。ヒョーゴの家へとー。


…… それなら自分の家でもイイだろうが。
口には出さない指摘に頬をゆるめ、デッキチェアーへとヒョーゴは視線を戻した。
そこに置かれたままのキュウゾウのメットを取りに行ってから、追いかける。

「 おい、放ったままにしておくな。夜露がつくだろうが。
  それにシャワーで済まそうとするな。ちゃんと風呂に入って暖まれ。
  おい、聞いているのかっ、キュウ… 」

どこまでも細心なヒョーゴの小言の声に、振りかえる者。
街灯からの照らしなんて必要ないほどに、光って見えた。

そして、……… 魅せる。


 赤褐色の微笑


ヒョーゴの呼声は、つづくことなく消え。
胸の奥が高まって。
ココロが…染まる。


( オレを惑わし、…… 安心させる …… )



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